【アガベ・塊根植物育成】植物は10個目からが1個目-OWNER’s VOICE File29

植物で変わった暮らし、視点、感情

――植物育成を始めたきっかけを教えてください。始めて良かったと思うこともお願いします。

2022年にコロナに感染したことがきっかけでした。

当時自宅隔離期間が10日間でしたが、僕は運よく3日目にはほぼ回復していました。やることがなくひたすら部屋の断捨離ばかりしていて気づけば部屋が殺風景に(笑)「隔離が終わったらホームセンターに行って植物でも買うか」と何となく思っていました。

そんなことを思いつつ残りの隔離期間、通販でタブレットを買って時間を潰そうと思ったんです。どのタブレットにしようかとYouTubeでレビュー動画を見漁っていたんですが、そのなかでガジェットYouTuber『monograph』の堀口さんの動画を見て衝撃が走りました。

ガジェットについて語る背後に、大量の奇妙な植物たちと、天井からぶら下がるおしゃれなLEDライト。後ろが気になりすぎてタブレットの話が入ってこない(笑)

塊根植物やアガベとの初めての出会いでした。そうして隔離期間が終わるとともに、僕の植物ライフが始まりました。

植物を好きになって本当によかったと思います。まず自宅で過ごす時間が本当に好きになりました。植物って一つ一つに世話を焼いて仕立てていくのももちろん醍醐味ですが、いくつか集まったときの景色が僕は大好きです。「植物は10個目からが1個目」と思いますね(笑)

あとは休日の過ごし方も変わりました。商業施設巡りくらいしか趣味のない人間でしたが、休日に少し離れた植物屋さんやホームセンター、植物イベントに行くのが楽しくて仕方ないですね。

――植物育成において、特に気をつけていることや管理方法について教えて下さい。 (水、光、風、温度など)

変な人と思われるかも知れませんが、植物とコミュニケーションを取ることが大切だと思います。やばいですよね(笑)

コミュニケーションというのは比喩ですが、植物が発するサインにきちんと気づいて、水・光・風・温度を管理するというイメージです。

グラキリスの塊根部がしぼんできたら水切れのサイン、アガベの葉が赤くなってきたら光が強いサイン、などなど毎日きちんと観察しながらこちらもリアクションしてあげることが大事だと思います。

「水やり3年」という言葉がありますが、一つ一つの植物ときちんと向き合っていくうちに植物と会話できるようになっていく、という意味だと思っています。

――植物育成をされている中での成功体験を教えてください。

昨年パキポディウム・グラキリスとケラリア・ピグマエアの自家採取に成功したことです。

どちらも大好きな植物でしたし、何より「我が子が生まれた!」という父性が芽生えました(笑) 僕が好きな塊根植物の多くはワシントン条約保護下の希少なものが多いです。

そうした尊い命を増やせたというのは、植物たちに自分なりの恩返しができたような気がして嬉しかったです。

『光堂』ではそうした自家採取した植物を販売したりしています。自生地の植物の代わりに、うちで生まれた植物を買ってもらえれば、微力ながら種の生存に貢献できているんじゃないかと思ったりします。自己満足ですが(笑)

――植物育成をされていて失敗したなと思ったことはありますか? あれば理由を教えてください。

今年に入って、名前を言うのも憚られるほど希少な植物を1つ枯らしてしまいました。カビが生えて調子を崩していったので、風が足りてなかったんだと思います。

自分の油断を呪いましたし、植物を育てること自体人間のエゴなのかもと思ったりして、かなりへこみました。

ただこの経験を無駄にしないぞとも思いました。植物の命に学ばせてもらって、もう同じ失敗を繰り返さない。育成環境を見直したり、育て方について勉強し直すきっかけになりました。

――育てやすい、あるいは育てるのが難しいと感じる植物はありますか?植物名とその理由を教えてください。

アガベはやっぱり生命力が強い、育てやすいと思います。綺麗に締まった形を作るのは時間と手間がかかりますが、水のやり過ぎに気をつければ完全に枯れることは少ないです。たくさんの人に挑戦してみてほしいです。

逆にサボテンや球系ユーフォルビアに苦手意識があります。見た目の変化が少ないので、水を欲しているのか、光は強すぎないか、うまくコミュニケーションを取り切れていない感覚があります。

あとは斑入りの植物はやっぱり難しい。モンステラやフィロデンドロンなど、見た目が芸術的に綺麗でたくさんお迎えしていますが、斑入りの葉を維持するのが本当に難しい。これができるようになったら達人だなと思います(笑)

――今後育ててみたい植物や挑戦してみたいことはありますか?

ベタですが、塊根植物の王様『オペルクリカリア・パキプス』は永遠の憧れです。ですがまだ自分はお迎えすべきじゃないと思っています。育成環境もスキルも「絶対に枯らさない!」と自信を持って言えるレベルじゃないと思うからです。

パキプスは塊根植物のなかでも特に希少で、大きくなるのに時間がかかって、尊い植物です。そしてそれゆえ高い(笑)育てることに責任を感じざるを得ません。

今は実生株をたくさん育ててみて特訓しています。植物ライフはまだまだ長いので、その時が来るまで焦らず憧れ続けていこうと思います。

あとは、マダガスカル、南アフリカ、メキシコには死ぬまでに行ってみたいです。パキポディウムやアガベの故郷ですね。どこまでいっても自生地の環境こそ至高だと思うので、気温や湿気、雨、土の質感を肌で感じてみたいです。

そこで自分が何を思うのかも気になります。自分がここまで熱を上げて、感謝もリスペクトもしている植物たちの自然で生き生きした本来の姿を見たとき、どんな感情になるのか気になりますね。

自分の部屋に植物が10個並んだ景色を見てほしい

――SNSや本、動画など、植物育成の情報収集はどのようにしていますか?

YouTubeで趣味家さんに学ぶことが多いです。植物屋さんや生産者さんよりも、自分と似た条件の人たちの方がリアリティがあって実践できる情報が多い気がします。

『monograph』の堀口さんや、『天気を気にする人のビデッオ』のりとまんさんは、僕のなかで神様ですね(笑)

あとは植物をお迎えするときに、必ず店員さんに育成方法について聞くようにしています。ずっと管理されていた人の意見は間違いないですね。

――植物の置き場所やレイアウトで工夫していることがあれば教えてください。

インテリアとの親和は意識しています。むしろ植物にインテリアを合わせにいってます(笑) 自分の暮らしに溶け込んでいるほど、愛着も増して正しく世話を焼き続けられると思うので。

その点では、LEDやスタンド、植物棚にもこだわります。育成を後押ししてくれて、なおかつ植物をより良く魅せてくれる道具は、希少な植物たちを長く大切にしていく上で重要な要素です。

――植物を育成されている方に向けて、初心者やユーザーの方にメッセージをお願いします。

「植物は10個目からが1個目」だと思っています。ぜひたくさんの植物を育ててみてほしいです。植物一つ一つを愛でることも楽しいですが、植物がたくさん並んだときに一つ一つの魅力がさらに際立つ相乗効果が働きます。 もちろん枯らさない努力が前提になりますが。

植物屋の店員さんに相談して育てやすい種類から始めてみたり、LEDライトやサーキュレーターなどの力を借りてみたりして、自分の部屋に植物が10個並んだ景色を見てみてほしいです。気づけば20、30と増えていきますよ(笑)

――あなたにとって植物とは何ですか?

最高の趣味だと思います。

植物を育てるようになってから、植物と同じくらい春も好きになりました。晴れた空も、日向ぼっこも。

毎年冬の終わりがけ、天気予報の最高気温がだんだん高くなっていくのを見るとそれだけで嬉しくなりますし、その日が晴れというだけで「今日はラッキー」と思えたり。

それまで当たり前に存在していた、太陽の日差し、晴れた空、春の訪れが、植物を育ててみて有り難いと気づけたし、小さな幸せを摂取できるようになりました。こんな趣味、他にないと思いますよ。


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